高知簡易裁判所 昭和35年(ハ)510号 判決 1960年8月12日
原告 株式会社愛媛相互銀行
被告 合田製綿株式会社
主文
被告は原告に対し、金参万弐千五百円及びこれに対する昭和三十五年七月七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は原告において金壱万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、原告は訴外佐田充稲に対する高知地方裁判所中村支部昭和三十四年(ワ)第九号貸金請求事件の執行力ある判決正本に基き、同訴外人が被告に対して有する昭和三十四年五月分より毎月支給を受くべき給料及び諸手当債権の四分の一につき高知地方裁判所昭和三十四年(ル)第三五五号を以て昭和三十四年五月十五日被告を第三債務者とする債権差押命令を得、更に同年六月三日同庁昭和三十四年(ヲ)第五二号を以て右債権の取立命令を得た。よつて原告は右債権差押並びに取立命令に基き被告に対し、被告の右訴外人に支給すべき昭和三十四年五月分より同三十五年二月分まで十か月分の給料及び諸手当合計十三万円の四分の一に相当する金三万二千五百円と、これに対する本件訴状送達の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金につき、これが支払いを求める。と述べた。(立証省略)
被告代表者は原告の請求棄却の判決を求め、原告の主張事実は認めるが、訴外佐田充稲は本件債権差押を受ける以前である昭和三十四年四月十六日同人が被告より支給を受くべき給料及び諸手当債権を訴外佐田静に譲渡し、被告は同日訴外佐田充稲から右債権譲渡の旨通知を受けたので、同年四月分以降同人に対する給料及び諸手当はすべて譲受人である訴外佐田静に支払済みである。と述べた。(立証省略)
理由
原告主張の請求原因事実は当事者間に争いがない。よつて被告の抗弁を案ずるに、本件債権の差押以前において、訴外佐田充稲が被告より支給を受くべき給料及び諸手当債権を訴外佐田静に譲渡し、その旨訴外充稲より被告に通知がなされた事実は当事者間に争いがなく、右通知に基き被告が訴外静に対し、昭和三十四年四月分以降訴外充稲に支給すべき給料及び諸手当を支払済みである事実は、証人佐田静加の証言によつてこれを認めることができる。然しながら本件給料及び諸手当の如き労働者の賃金は、労働基準法第二四条により、法令に別段の定めがあるか若しくは労働組合等との協定がある場合のほかはすべて直接本人に支払わなければならないのであつて、これに反する支払いは処罰の対象となつていることに鑑み、同条所定の除外事由に該当することについての主張立証のない被告の右支払いは、結局違法無効のものといわなければならぬ。それゆえ被告は右の支払いを以て原告の請求を阻むことはできないから、被告の抗弁は採用の限りでない。
してみると被告は原告に対し、本件差押並びに取立命令にかかる金三万二千五百円と、これに対する本件訴状の被告に送達された翌日であることが記録上当裁判所に明らかな昭和三十五年七月七日以降右金員支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、この義務の履行を求める原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 市原佐竹)